警告!  この映画は、作品ではありません! 前衛映画でも実験映画でもなくそこには意図した
アバンギャルドな精神は決して存在しないのです。 偶然、キャンバスに零れ落ちてしまった絵具の ひとつひとつなのです・・・
   
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  ストーリー 

アメリカから各駅電車に乗ってニッポンにやって来た黒人のジャクソン。

彼は道端で全財産が入った財布を落としてしまい、途方に暮れているところを

布教活動中の白人・ホワイトに助けられる。 ある日、ジャクソンはホワイトの

知人・ヨーコに恋をしる。だが、ヨーコの家は 地上げ屋に狙われていた。

途中、訳の分からないヘンテコ風のロシア人も加わり

悪徳地上げ屋YAKUZAとの間抜けな銃撃戦が開始される。

 
 
         
         
   

処女作『映画少年は座り込んだ』を都内の上映会で偶然、鑑賞したある出資者は

作品の底辺に流れる作者の暴力的な匂いを感じ取り、即座に出資者本人の

企画・脚本による 35ミリ長編劇映画の監督に若干19歳だった北田直俊に依頼、打診する。

ちょうど次回作予定 だった8ミリ『十九歳の地図』を製作中だった北田はその映画を中断させ、

予算800万で横浜 が舞台の近未来暴力映画のその企画に飛び付いた。主役に当時、

チャイルズで売り出し中だ った磯野貴理子や螢雪次朗氏などが決定し、準備が進められてきたが、

クランクイン直前に 様々なアクシデントに見舞われて、映画企画自体が暗礁に乗り上げいったんは

全員に解散が 言い渡された。その時点で半年間も無給で動いていた監督担当の北田は出資者の

許可なく、 手元にあった機材と数本の生FILM、数人のスタッフとスタジオ等を利用して原案から

クラン クアップまで、たったの2日間という日数で撮り上げた。 余談ではあるが、撮影中に

主演の 女の子が逃げてしまいダッチワイフがその代わりを見事に 演じている。 後日当然ながら、

北田監督は出資者の黄金町の自宅まで呼び出しをくらい、40分間無抵抗の まま、殴る蹴るの暴行にあう。

制作途中だった『十九歳の地図』の8ミリ映画も結局、未完 に終わり、この『白人と黒人』も以降24年間も

ネット時代が来るまでお蔵入り状態だった。

   
  解説
   
 
   
   
   
   
         
         
           
   

制作           

企画・脚本・監督
美術・脚本・衣装
脚本・制作
脚本・制作
撮影・照明
編集
記録
録音
音楽
製作担当
仕上げ
現像
協力

 

出演者

ジャクソン
ホワイト
ヨーコ
ロシア人

 




joe

北田直俊
花谷秀文
森田雅之
小柳雅一
中保真典

西原 昇
鶴田しのぶ
菅沢直樹
CROW&SHIROW
粕谷 浩

整音スタジオ
東京現像所
沢下和好・神谷編集室
井山和彦・オフィス ココ

 


花谷秀文
小柳雅一
南 初江
森田雅之

川村由妃・若泉政人・大塚 旭・山田ミツオ
細谷 仁・加藤 猛・征路由朱・佐藤政昭

須藤健一・梅田晶実・ダッチワイフ
   
         
       
         
         
   
 
    あなたなら、何を撮る?    

監督の北田直俊は一見、元ラクビー選手かと思わせるようなイメージがある。花園ラクビー場で泥まみれの
ラガーシャツに身を包み、ボールを抱えて走り回っている姿がよく似合いそうだ。が、実際はスポーツが大嫌
いな運動オンチなのだそうだ。では、その頑健なボディにいかにしてなったのか?
それはすべて工事現場の 肉体労働からなるものらしい。

初めて我が家へ来た時、映画にも出てくる愛犬のクロを伴って現れた。『工事現場から直接来たので足、
クサイっすよー』と言っていた。 『いいよ、気にしなくても』とは言ったが、安全靴を脱いで上がり込んできた
北田の足の匂いはこの世のもの とは思えぬ程、強烈な臭さだった。普通ならたちまち不愉快になるところだが、
不思議と彼の人柄か、その臭 さにも好感が持てた?気がする。 

その彼が、『イヌ』以前に撮った作品が3本ある。
その中の一本、彼が19歳の時の作品『白人と黒人』がもの凄い。
彼は処女作の8ミリ映画が日本映像フェスティバルの優秀賞に選ばれ、それをきっかけに個人的なスポンサーが
ついたらしい。予算800万円の出資金の元、近未来暴力長編映画を撮ることになるが、クランクイン直前で様々な
アクシデントに見舞われ、空中分解したらしい。映画の世界ではよくあることだ。
いや、 映画以外でもよくあることだ!

しかし、もう押さえてあるスタジオやレンタル機材等の諸費用は撮影するしないにかかわらず払わなくてはなら
ない。その費用は約300万円。それならばと彼のもとに残った数人のスタッフを総動員して何かを撮らない手はない。
タイムリミットはたったの2日間。 脚本もキャストもロケ地もテーマすら何も決まっていない。
そんな切羽詰った状況の中で撮ったのが『白人と黒人』だ。

企画原案からクランクアップまでたったの48時間。そう聞かされていた俺は、そのタイトルからアバンギャルドな
切れ味の鋭い刃物のような作品をイメージし、手渡されたVHSをデッキに挿入する時の気分はこれから 自爆テロに
向かう奴のテンションになっていた。作品が始まる・・・。

これは一体何? 中学生の仲良しグループが文化祭に出すためにちょっと頑張って撮りました的なこのノリは何? 
全てが中途半端、笑えない、勿論泣けない。 ただただかっこ悪い。彼はこの作品を結果的に300万円出資したスポ
ンサーに提出したらしい。するとスポンサーは後日、個人的に北田を呼び出し、約40分間、 無抵抗の北田を殴る
蹴ると、散々ドつき回したらしい。そのスポンサーの気持ちも良く分かる。300万出して コレじゃ、浮かばれない。

この作品の後、彼のスタッフは全て彼から離れ、音信不通になり、独りぼっちになった北田は茨城の海に行き一人
砂浜で号泣していたらしい。(湘南じゃなく茨城の海というのが北田らしく て笑えるが)

ところが、北田はこの映画を通じて、若干19歳にして実践で映画作りのノウハウを体得していたのだ。
アッパレである。しかも、大胆にもこの映画を持って、某映画館の支配人に上映してくれと掛け合いに行ったらしい。
いずれにせよ、この時の経験がなければ続く『風景映画』そして『イヌ』を作り上げることはなかっただろう。

『白人と黒人』をもう一度見ると、作品の善し悪しは別にしても、彼の人柄が良く出ている。
彼は2日のタイムリミットで何を撮るか?という状況になった時『白人と黒人』を撮ったのだ。
頭が空っぽの混乱パニックの 状態でこれを撮ったのだ。絶望的ともいえる勝ち目のない勝負の中、こんな牧歌的とも
いえる作品を撮った監督の人柄がいとおしい。

もし、あなたが彼と同じような状況に陥って、2日で何かを撮らなければならないとしたら・・・。
あなたなら何を撮りますか?

                アップライジング   中野貴之
                『イヌ』公開に合わせてのコメント(2002)

 

 

北田直俊監督のコメント(公式ブログにアップした2011.12.13の記事..

僕の新生公式ウェブサイト制作にあたり、資料やらデータを日々整理している。
過去の6作品も無料で配信できる様に仕様し直すつもりである。
19歳の時の『白人と黒人』も同様で、色々と調べているうちに主役の黒人役を
演じた奴が急に気懸かりになりネットで検索する。

元々、この『白人と黒人』なる16ミリ中篇ギャグ映画の前身は 或る人物から
依頼された予算800万のブローアップ35ミリで横浜が舞台の SF暴力長篇映画であった。

僕の商業映画デビュー作品になる予定だった。有頂天だった。 19歳で35ミリ映画の
監督である。僕は天才だと本気で自惚れていた。

当時「笑っていいとも」にレギュラー出演していたチャイルズの磯野貴理子に主役を
打診し、スタジオアルタ事務所でマネージャー共々の承諾を得た。

同時に滝田洋二郎作品などでお馴染みの蛍雪次郎氏の出演承諾も得た。

僕は半年間もお風呂に入らず、120円の6枚切り食パンにマヨネーズだけで 3日間も
もたせる徹底した節約術で西から東へと彼方此方這いずり回り映画の 準備に奮迅した。
成人式も糞もなかった。この映画製作こそが僕の成人式だと独り合点で いわゆる、
映画監督に夢想していた。暇があればたった一人、鏡に向かって何度も 予行演習の
演出した。ナルシストの極致で映画を撮るよりも映画監督に 憧れていた。
つまり・・・空っぽだったのだ。

そんな調子だったので、至極当然に能無し監督であることが見抜かれて紆余曲折を
経てこの映画は頓挫した。 出演者全員と協力者、大半のスタッフが消えて居なくなった。

手元の残った16ミリFILMとスクーピックカメラ、美術衣裳、前金で予約済みスタジオ
そして3日間。

この絶望下で1本映画を撮ろうと思った。

映画美術志望で僕と同い年で前述の映画で映画美術デビュー予定だった花谷秀文氏を
強引に主役に見立て、1時間で原案作成、3時間で脚本作成 準備10時間、クランクインから
アップまで40時間足らずの『白人と黒人』を 完成させる。

それ以来、彼とは会っていない。 あれから24年。 今年度、第34回日本アカデミー賞で
彼は自身が手掛けた『大奥』の美術 において優秀美術賞を獲得している。アッパレである。
憚り乍らも、そんなお互い19歳の痴態を無料配信で曝け出していいのだろうか?

当時、彼のアパートでウイスキーと日本酒のチャンポンを飲まされ居間の絨毯にゲロを
吐いたのを覚えている。大林映画が好きだった彼は映画においての美術の在り様を自信
たっぷりに吠えていたのも懐かしく覚えている。

お互い歩む道は大きく分かれたが、今回の栄誉は陰ながら拍手を送るよ。 おめでとう。

 
     
  完成したばかりの『白人と黒人』を配給して

もらおうと前作の8ミリ映画共々を半ば強引に

見て頂いた、或る映画館主のコメント
 
     
   


『白人と黒人』・・・基本的なアイデアは面白いと思う。実際この映画の主役三人は実に魅力的だ。
けれども、この作品を「商品」として世に出せるかと問われるなら、それは「NO」と答え ざる得ない。
なぜならこれはまだ習作の段階にあるからだ。「作家として世に出ること」を 意識し過ぎた為に、
前作『映画少年は座り込んだ』のような個人的な題材ではなく、 もっと 社会的な拡がりを持ったもの、
それを元に純粋に虚構の世界を築こうとしたのではないか。

言葉が大きくなって若干、感じが違ってくるかもしれないが、言わば自己の世界観・メッセ ージを
世に問おうという気持ちが少なからずあったのではないか。 それは作家の姿勢としては正しい。
そして、それを映画にしてゆく為のアイデア、つまり 一種の仮面劇で描いて行くという手法は優れた
センスを感じさせる。殊に主役三人の役柄は 個々の役者の魅力、その配役の妙とあいまって、
この映画の忘れられないいくつかの場面を 生みだしている。

ところが、なぜかこの三人が画面から消えた途端に映画のボルテージがガクンと落ちてしまう。
他の俳優達に力量がなかったと言えばそれまでだが、理由は別にある と思う。それは映画を作り上げて
いくうえでの図式というものが、たとえそれがパロディであるにせよ、なにか借物めいたよそよそしさを
感じさせたからではないだろうか。

『映画少年は座り込んだ』であれほど情熱的に、しかも繊細になされていた演出が、この映画では、
何か及び腰な感じ、隅々まで映画を掌握できていない印象を与えている。

それは二つ理由があるのではないか。第一にメディアの問題。16ミリを撮るという行為自体の大変さと
楽しさに溺れてしまって『映画少年は座り込んだ』で見せたような冷静さを失っ てしまったということ。

第二に素材の問題。8ミリであれほど素晴らしい作品を作り上げたのにもかかわらず決してそれに安住
することなく、全く異なった作品、しかも喜劇という最も困難なジャンルに挑戦したことは作家としての
志の高さに可能性を示していて賞賛するに 余りある。

しかしながら『映画少年は座り込んだ』がスキのない映画だったのに対して『白人と黒人』はまだ素材が
未消化であり、喜劇だからこそ足をすくわれないようにしなければならない。

一観客として両作品を見比べた場合、『白人と黒人』は生まれるのが少し早過ぎた作品だと思う。
いずれにせよ、君には映画創造の才能が、誰が何と言おうと確かにある。

あとはその才能をいかに形にして世の中に送り出してゆくかということだろう。つまり、君はまだ
もっと君自身を、君自身の言葉で語るべきだと思う。                          

                     1988.5 都内某映画館主
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